白黒学派

Monochrome School

拙文へのご批判についての質問

二階堂黎人


二階堂様のHPである黒犬黒猫館で、僕に対するご批判を拝読いたしました。僕が不勉強であるというご指摘は真摯に受け止め、今後も本格推理小説の研究に力を注ぐつもりでおります。


ただ、二階堂様のご指摘のなかにいくつか理解しにくいところがあり、そのひとつに関しての質問をこのはてなダイアリーにて述べさせていただきます。なお、二階堂様以外の名前は敬称略とさせていただきます。


その質問とは『本格ミステリ・ベスト10』の『神様ゲーム』の書評についてです。


まず、考え方の相違を確認したいと思います。『本格ミステリ・ベスト10』の『神様ゲーム』の拙文は「解説」ではありません。『本格ミステリ・ベスト10』は、対象書籍を未読の読者も既読の読者も対象としていると考えております。そのふたつの読者層に対して適切な文章とは「解説」などではなく、まずは未読の読者を導く役目を担った文章だと考えます。つまり未読の読者を対象としたごく一般的な書評です。過去の類似作品への言及、犯人や動機、トリックなどの明示は対象書籍の未読の読者の興を削ぐ結果となるため、そうした解説を『本格ミステリ・ベスト10』で載せることはふさわしくないと考えます。その上で、評論的な意味を既読の読者に暗に示すことが求められていると考えておりました。


また麻耶雄嵩は、拙文でも述べているように、笠井潔の定義した「第三の波」のなかで、非常に独特な立ち位置を保持している作家です。今回の『神様ゲーム』で試みた方法からも明らかなように、「本格推理小説か、本格推理小説でないか」ということこそが本書の面白みであり、その結果を読者に明かしてしまうことは、僕のつたない文章では「ネタバラシ」にしかなりえないと考えました。それでも、15P上段11行目から下段15行目までは、僕なりに本格推理小説という定義を踏まえて書いた文章です。


また『神様ゲーム』は「児童文学として適当なのか適当ではないのか」という二階堂様のご指摘ですが、僕は拙文にて「お子様には勧めにくい作品」として「ミステリーランド」の島田荘司竹本健治の作品に言及し、そうした作品群と同じく『神様ゲーム』は「問題作」と紹介しています。


以上、ふたつのご指摘に対し拙文である程度は応えていると思いますが、それでは不十分なところもあると考え、『神様ゲーム』という昨年を代表する問題作の意義をしっかり知っていただくためにも、国内座談会ではあえてある評論について言及しております。


それは笠井潔の連載評論「人間の消失・小説の変貌」で『神様ゲーム』を論じている13回「結末と驚異」です。拙文の射程はその「結末と驚異」の範囲を超えるものではありません。そして、二階堂様がおっしゃる「本格であるのか本格でないのか」「児童文学として適当なのか適当ではないのか」に対して、「結末と驚異」ではしっかり論じられていると考えます。


これでも、二階堂様にしてみれば不適切というご指摘なのだと思います。でなければ、「まったく、触れておらず」という、強調された言葉をお選びにならないでしょう。「神の論理」、「問題ではなく」なった「演繹推理や帰納推理」、「お子様には勧めにくい作品」、「問題作」という表現は、暗に示すどころか空虚な言葉ですらないという二階堂様のご判断なのだと思います。後身の不勉強を指摘される二階堂様がよもや国内座談会での僕の言及を見逃しているとはありえないでしょう。とすれば、やはり「解説」でしっかり書くべきだとお考えなのだと思います。


そこで質問なのですが、そのような「解説」とは具体的にどのような「解説」なのでしょうか。ぜひ、実作をご呈示してその「解説」をご指南いただければと思います。「あらすじ」の他に、「本格推理小説としての定義」、「児童文学としての定義」、「作品の羅列ではない歴史的観点」と「発展史観」と「トリックの技術論」をすべて盛り込んだ、本格推理評論としての「解説」を二階堂様の日記で例示いただけないでしょうか。よろしくお願いします。


上記の他にも、僕が読む限り様々な疑問を二階堂様の「論考」から見出すことができます。そしてどうやらそれは僕だけではないようで、Webの多くの読者が様々なかたちで困惑を表明しています。賛同されている方は寡聞にして知りません。


おそらくそのようにまわりから読まれてしまう二階堂様のご発言が、「たんなる困ったちゃん」笠井潔から揶揄され、かつ「巽見解のほうが歴然として説得力が高い」と評価され、有栖川有栖からは「定義に縛られ、思考が硬直」しているとされた上で「敗訴」を言い渡されているゆえんなのかもしれません。そうしたことはいずれ別の機会にうかがえることと思います。ですので、この点についてはお答えいただかなくてかまいません。


なお、この件に関しまして、僕宛にメールを送信されたり、もしくはどなたかに委託してメール等の連絡手段を用いられた場合、無条件でWebに公開させていただきますゆえ、なにとぞ「恒星日誌」でのご回答を希望いたします。


それでは、よろしくお願い申し上げます。